時計の針を1940年代まで巻き戻そう。インドの首都デリーの一角で、のちに世界のカレー史を大きく変えることになる画期的な発明が生まれた。考案者は、料理人クンダン・ラル・グジュラールである。当時、彼が直面していたのは「タンドール窯で焼いたチキンが乾燥してパサついてしまう」という極めて実用的な課題だった。
食品ロスを防ぐため、彼は売れ残ったタンドリーチキンを、トマトとバター、そして生クリームをベースにしたソースで煮込むことを思いつく。これが、現代我々が愛してやまない名店モティ・マハル(Moti Mahal)の創業物語であり、一皿の歴史の始まりだ。元来、重厚なスパイス使いとコクのある肉料理を得意とする北インド料理やムガル料理の伝統の中に、フレッシュなトマトの甘酸っぱさと乳製品の濃厚さが融合した瞬間だった。