SNSや画像加工アプリの普及によって、他人の視線や外見への評価がかつてないほど個人の精神を圧迫する時代。西加奈子が『きりこについて』で提示した視点は、まさにルッキズムに対する最も本質的な処方箋といえます。
作中で語られる黒猫ラムセスの言葉や、きりこが内省を通じて見出す気づきには、読者の価値観を根底から覆す力が宿っています。
「美しいってどういうこと?」
世間が規定する「美しさ」とは、時代や文化によって容易に移り変わる記号に過ぎません。ラムセスがきりこに教えたのは、他人が勝手に作った基準に自分を合わせる無意味さでした。生き生きと命を燃やし、世界に好奇心の目を向け、誠実に生きているその姿そのものが美しいのだという真理が、静かに語られます。
「世の中でいちばん大切なこと」
きりこが物語の果てに見つけたのは、「誰かに愛されるための自分」を演じることではなく、「自分自身がこの世界をどう愛するか」という主体性でした。自分の外見を嘆く受動的な被害者から、世界を主体的に肯定する表現者へと生まれ変わる瞬間、きりこの内面から圧倒的な輝きが放たれます。