水野氏の名を世界に知らしめたのは、言わずと知れた日産自動車でのGT-R開発プロジェクトだ。開発責任者として一切の妥協を許さず、ニュルブルクリンクで世界最速のタイムを叩き出した手腕は、今なお語り継がれる伝説である。彼が唱えた「人間中心の車両工学」は、極限状態での操縦安定性とタイヤグリップを科学的に解析し、クルマの挙動をミリ単位でコントロールする哲学に基づいている。
そのDNAは今回のプロジェクトにも色濃く受け継がれている。量産車の開発現場ではコストや組織の壁に阻まれがちだった純粋な技術的理想が、制約の解き放たれた環境で一気に開花しようとしている。重力とトラクションの関係を解き明かし、ドライバーの意図に完璧に同調する足回りのセッティングは、かつてのGT-Rを超える衝撃を提示するに違いない。