サクラオブルワリーアンドディスティラリーが手掛けるウイスキーの根幹には、広島の豊かな自然環境を最大限に活かした「2つの熟成環境」の対比があります。海側に位置する「桜尾蒸留所」と、山間部に位置する「戸河内貯蔵庫」では、原酒に与える環境要因が根本から異なります。
戸河内ウイスキーの象徴とも言える戸河内貯蔵庫は、かつて旧国鉄・JR可部線の延伸工事に伴って掘削されたものの、開通することなく未成線となった全長800メートルを超える鉄道用トンネルを活用しています。トンネル内は年間を通じて気温が約14度から15度、湿度が80%前後に保たれており、四季の寒暖差が極めて小さいという特異な微気候(マイクロクライメット)が形成されています。
この冷涼で湿潤な環境下では、樽からの原酒蒸発(天使の分け前=エンジェルズ・シェア)が年間1〜2%程度と非常に緩やかに進みます。急激な木質成分の溶出が抑えられ、原酒本来のフレッシュな果実香、青リンゴや洋梨のようなアロマ、そしてバニラのような上品な樽香が調和した、透明感のある酒質へと育まれていきます。
これに対し、瀬戸内海の潮風が吹き込む桜尾蒸留所内の貯蔵庫は、夏冬の激しい寒暖差によって熟成がダイナミックに加速し、ウッディでドライフルーツのような濃厚なコクとスモーキーさが際立ちます。同じモルト原酒でありながら、「静の戸河内(山・トンネル)」と「動の桜尾(海・潮風)」という明確なキャラクターの描き分けがなされている点こそ、造り手の卓越した技術と哲学の表れです。