ドン・キホーテの代名詞として知られる「圧縮陳列」の発祥は、綿密なマーケティング理論から生まれたものではありませんでした。18坪という極小の売り場に、仕入れた大量の訳あり商品を保管するバックヤードが存在しなかったため、天井スレスレまで商品を高く積み上げざるを得なかったという「物理的制約」がすべての始まりです。
日中はひとりで接客し、夜間に届く大量の段ボールを開梱して段積みする過酷なワンオペレーションの最中、段ボール箱を切り抜いて手書きPOPを貼り付け、迷路のように商品を押し込む陳列技法が自然発生的に完成しました。客が宝探し感覚で棚の奥を覗き込み、思わぬ掘り出し物を衝動買いしていく――。安田氏は、従来の日本の小売業界が金科玉条としてきた「見やすく、取りやすく、買いやすい」スーパーマーケットの定石をあえて全否定し、「見にくく、取りにくく、買いにくい」というエンターテインメント性を付加価値へと昇華させたのです。
1989年に東京都府中市へドン・キホーテ1号店を出店して以降、流通大手ダイエーやマイカルの凋落を尻目に快進撃を続けられた最大のドンキホーテ成功理由は、現場のアルバイトやチーフに仕入れ・値付け・陳列の決定権を丸投げする「個店主義」と「完全な権限委譲」にあります。