ふたりの芸術的融和が最高の形で結実したのが、津川雅彦が「マキノ雅彦」名義でメガホンを取った監督デビュー作、映画『寝ずの番』である。叔父・マキノ雅弘から受け継いだ江戸前ならぬ上方落語の粋と人情を描き切った本作で、津川は物語の要となる重要な役に実兄・長門裕之をキャスティングした。
時代劇から現代劇まで知り尽くした監督・津川が下す厳しい指示に、兄・長門は円熟の怪演で応えた。現場では監督と役者という張り詰めた関係でありながら、そこには映画への情熱を同じくする兄弟だけの暗黙の呼吸が流れていた。完成したフィルムに刻まれたのは、映画作りに生涯を捧げたマキノ一族の誇りであり、弟から兄へ贈られた最高のラブレターだった。