広島三越店が営業していた当時、昼時には買い物客やビジネス層が列をなし、夜には接待や記念日で賑わいを見せていました。多くの人々を惹きつけてやまない串の坊の真骨頂は、ランチ限定メニューの圧倒的なコストパフォーマンスと、ディナーで本領を発揮する「おまかせコース」の構成力にあります。
ランチタイムに圧倒的な支持を集めていたのが、手頃な価格で専門店の揚げ技を堪能できるランチ限定メニューです。代表格である「潮騒(しおさい)」や「夢幻(むげん)」といったセットは、2,000円〜3,500円前後の価格帯で提供されていました。海老の紫蘇巻き、柔らかな牛ヒレ、季節野菜など、計算し尽くされた8〜10本の串揚げに、契約農家から届く新鮮な生野菜、炊き立てのご飯、赤出汁、デザートまでが美しく並ぶ充実の内容でした。
一方、夜の主役となる「おまかせコース」は、メニュー表に決まった終了本数が存在しません。職人がその日の特選食材(活車海老、子持ち昆布、グリーンアスパラの一本揚げ、フォアグラなど)から、客の食べるスピードと好みに合わせて次々と揚げ立てを提供し、客が「ストップ」を告げるまで至極の串が続く贅沢なシステムです。目安として15本前後を食した場合の予算相場は6,000円〜8,500円程度(アルコール類を除く)となり、老舗高級串揚げ店としては極めて良心的な価格設定が維持されていました。
卓上に並ぶ調味料へのこだわりも徹底しています。特製ブレンドの串揚げソース、酸味豊かなポン酢、ゴマ芥子(からし)、特選岩塩が専用の器に用意され、職人が串を置く皿の向きによって「どの調味料で食すべきか」を無言でナビゲートする所作は、まさに職人芸と呼ぶにふさわしい食のエンターテインメントでした。